私はSNSサイトで出会った人としか付き合ったことがない。
「恋愛」というのに興味を持ちはじめたのは中学校1年生、13歳になったばかりの頃だった。
学校には行っていたし、部活動や委員会活動に積極的に取り組んでいた私は中学校入学と同時に購入してもらった携帯電話はさほど必要のないものだった。
当時はそんなに携帯電話を持っている同級生もいなかったので、連絡取り合うのは家族くらいしかいなかった。
ある日「モバゲーがおもしろい」「前略プロフィールをやっている」という話を耳にした。
モバゲー?前略プロフィール?その単語にすごい興味を惹かれた私は初めてといっていいほど使っていなかった携帯電話の検索機能を使ってみた。
登録してみないとどんなサイトなのかはイマイチわからないからまず登録をしてみて、画面に書かれてある通りに文字を入力していくだけだった。
ページを完成しただけでとくにこれといって何かが変わったわけではなかったしあんまり楽しいものではないんだなと思ってたまにサイトを覗くくらいで最初は放置していた。
夏休みに入る前のことだった。学校生活や家庭環境においての人間関係にすごく悩んでいた。そんなときに「もしかしたらサイトを利用したら誰かと出会えるかもしれない・・・」そう考え始めてからは早かった。前略プロフィールというのは中高生の中で流行っていて、その利用している女の子を援助交際目的で出会うために利用している男の人もいたし恋愛感情ありますって全面的にアピールしてセックスをすることしか考えていないいわゆるヤリモクの男の人もすごく多かった。
当時13歳だった私はサイトで出会うことに関してまったく恐怖心はなくて、どんな人がいるんだろう?何か生活が変わるんじゃないか?そんな好奇心の方が大きかったように思う。
前略プロフィールにメールボックスを設置してみるとポツポツとメールが届くようになってメールって楽しいって思うようになった。電話もしてみて会ってもいいかなって思ったときにはじめて会う約束をした。近くのスーパーまで迎えにきてもらって緊張はしたものの怖さはやっぱり全く感じなくて出会ったのはたしか26歳の男の人だった。
車でデパートに行って欲しいものを買ってもらったり、おいしいご飯を食べたり、観覧車に乗ったり。どれも新鮮で、デートってこんな感じなんだぁと13歳だった私は凄く浮かれていたと思う。
一回出会ってしまうとまた違う人と会ってみたいっていう欲求すら出てきた。
SNSサイトで男の人に出会うことで「必要にされている自分がいる」と埋まらなかった気持ちが埋まった気がした。
最初は「好奇心」ではじめたSNSサイトがいつしか「生きるため」に変わっていった。
私の両親は離婚をして、その離婚をきっかけに転校することになった。
転校した学校先でのいじめ、母親や母親の彼氏からの性的虐待、ネグレクト。
大好きだった母に裏切られてしまったという喪失感、やるせなさ、絶望。
色んな気持ちでいっぱい溢れていて、SNSサイトを利用していないと私は一人の世界にいるんじゃないか、本当に誰にも必要とされていないんじゃないか、そう思ってしまっていた。
学校も行かなくなり、家にいたくない私は更にSNSサイトを利用するようになった。
前略プロフィールの他にモバゲー、GREE、ミクシィという4つのサイトを使ってかなりの男の人とつながっていた。
より検索しやすいように検索ワードを並べたり、更新頻度を多くしたり、自分の画像を載せたりしていた。
はじめの1年で実際に会ったことのある男の人は多分12人程。一ヶ月に2人位だったと思う。
そこから1年、また1年とどんどん出会う人の数は増えていった。
当時母親はギャンブル依存もあり、その日暮らしの生活をしていた。
ご飯を食べられないこともあって自分の生活は自分でどうにかしようって思うようになった。
自分は可哀想なんだと思ってもらえれば男の人は優しくしてくれる、そう思っていた私はいつも身の上話をして辛いけど頑張っていると健気な振りをしていた。
好き、といえば会ったこともないのに欲しいものを送ってくれたり、ご飯食べられないといえばお金を送ってきてくれたり。
体と体で繋がることもそんな自分に対する罰で何も感じない、何も考えないもうひとりの自分を私は作るようになった。
高校生になって、携帯電話がガラケーからスマートフォンに変わると今まで使われていたSNSサイトも変わり始めて、ライン、フェイスブック、Twitter、インスタグラムなどが多く使われるようになった。
全て利用しているが私にとっては男の人と出会うツールではない。
少しのつながりは私に優越感は与えてくれない。そこで私が利用し始めたのはライン掲示板だった。
ひとつ投稿するだけで1分間の間に何十人ものの人がラインを送ってきてくれる。
好きな時に手間なく私を満たしてくれた。
もちろんSNSサイトを利用していて怖いことがないわけじゃない。
ニュースでも殺されてしまったりする事件もたくさん目にする。
簡単に「そんな危ないことやめた方がいい」っていう人の方が多かった。
でも生きるためにやっている私にとってその言葉はとても残酷な言葉でしかなかった。
SNSサイトで出会った人とセックスすればいつ自分が病気になってもおかしくないんだという現実、騙し騙され合う世界でいつ殺されてしまうかはわからないんだということ。
でもそのリスクを背負ってでもSNSサイトという道にしか繋がることしかできなかったんだと私はわかってもらいたかった。
私は一度信用していた人に「そんなことやめろ」と言われてから悪いことをしているんだと長い間SNSサイトを通じて男の人と出会っているということは辛くても言えなかった。
ただただ嘘を重ねて説明している自分が嫌で心に傷だけが増えていった気がする。
数十年経った今でも私はSNSサイトの世界からは抜け出せていない。
私にとってSNSサイトで男の人と出会うことは安定剤、いや麻薬的なものなのかもしれない。
やめようって思ってサイトから離れては戻ってを繰り返している。
少しでも離れられるようになったのは現実社会で人と出会うことが出来るようになったからだと思う。
安心した空間で傷つくことなく自分の話をしたり、相手の話を聞くことは自分にとってとても大切なことだった。
サイトの世界は自分の身は自分で守るしかない。
でも現実の世界ではたしかに傷つけてくる人もたくさんいるけどフォローしてくれる人もいるんだと知ったら少しだけ私の世界は変わった気がする。
一歩進んで一歩下がるでもいい、これからも色んな世界を見ていきたい。
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