のびアート

定休日

とあるそば屋の前で、二人の兄弟が話していた。

弟「ここはおかしなお店だね、兄さん」
兄「まったくだ、こんな貼り紙をしておいて」
兄が指差した貼り紙には、こう書かれていた。

『定休日はありません』

兄「『定休日はありません』なんて書いておいて、このそば屋は開いていたためしがないんだ」
弟「入ろうとしても、戸に鍵がかかってて入れないしね」
兄「しかし、どうしてもこの店が気になるな。中に誰かいるはずなんだが」
弟「ここにインターホンがあるよ、ちょっと押してみよう」
弟がインターホンを押すと、『ブー』と音が鳴った。
弟「おかしなインターホンだね、兄さん」
兄「まったくだ、普通は『ピンポーン』のはずなんだが」

二人が戸惑っていると、戸の向こうから、鍵が外れる音がしたと思うと、ガラッと勢いよく戸が開いた。
中から出てきたのは、不機嫌そうなそば屋の主人だった。

主人「おい、おめえら、ひとの店の前で何してやがる」
兄「あの、このお店のお蕎麦をいただきに来たのですが」
主人「なにい?おめえは、この貼り紙が読めねえのか!」
弟「で、でも、『定休日はありません』って書いてありますよね」
主人「そうよ、なんか文句あるか?」
兄「そう書いてあるわりには、営業していたためしがないような…」
主人「ったく!最近のわけえ連中ってなあ、言葉を知らねえんだからな!」

二人はけげんな表情で顔を見合わせた。
主人「いいか、『定休日』ってのは、どういう日のことだ?」
兄「ええと、一週間のうちの、ある特定の日がお休みですってことですよね」
主人「それが、うちには『ない』っつってんだよ」
弟「あのう…ちょっと意味が…」
主人「しょうのねえ奴らだなあ!」

主人は、いらだたしげに、再び貼り紙を指差すと、こう言った。
「うちは毎日休みなんだよ!」

兄弟は呆気にとられた

主人「特定の日じゃなくて、毎日休みなんだから、定休日がねえのは当たり前だろうが。だからこの貼り紙を出してんだよ。わかったか?」

二人は返す言葉がなかった。

と、奥から、女性の声が聞こえてきた。
「あんた!さっさと食べちゃっておくれよ!お蕎麦がのびちゃうじゃないか!」
「わかってらあ!ちっと待ってろよ!」
主人はいらだたしげに答えると、再び兄弟のほうを見る。
「なにボケッと突っ立ってやがる。うちは昼飯食ってるとこなんだよ。用が済んだならとっとと帰れ!」

兄弟はあわててその場を離れ、仕方なく向かいにあるラーメン屋で昼食をとった。
兄弟は、そば屋の件について、ラーメン屋の主人に話した。
ラーメン屋の主人は、感心したように、
「そうかい、いやね、おかしな店だなあと、うちも思ってたのよ。あんな貼り紙しといて、やってたためしがないんだもんね。しかし、そんなウラがあったとは、なかなかやるもんだなあ」

数日後、兄弟は再び昼食をとりに出かけた。
例のそば屋のガラス戸には、相変わらず『定休日はありません』という貼り紙がしてあった。

二人は横目でちらりとそれを見つつ、向かいにあるラーメン屋を訪れたが、ラーメン屋にはシャッターが降ろされていた。
二人が近づくと、シャッターには一枚の貼り紙がしてあった。

貼り紙には、こう書かれていた。

『定休日はありません』

出演:兄、弟、そば屋の主人と奥さん、ラーメン屋の主人
作:友

定休日

ペンネーム : 友さん
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