交番に持っていくわけでもなく
近くの店に伝えるでもなく
けれど踏まれないように
見つかるようにその場所に置いた
見知らぬ誰かの優しさの片割れを見た
それは私にもある弱い心であり
日本人に根強くある美しい文化でもある
夏の暑い日、彩度の高い日、美しい青空の日
私はこの日、たくさんの写真を撮った
なのにどうして、この靴だけが心の中にころりと転がったまま拾われない
何もかもが美しいその光景に
私は常に寂しさを抱えているのだと思う
どうかこの靴の片割れが
見知らぬ誰かの優しさの片割れが
そして私のえもいえぬ心の寂しさが
隣の空白を埋められますように
『優しさの片割れ』
ペンネーム : てぬ