仕事終わり 新月の夜 風に吹かれたくて港まで歩いた
対岸を走るトラックと桟橋の光が 夜の潮風に滲んでいた
枯れた喉に 冷たい夜風がしみて せっかくの景色がソフトフォーカスの世界に沈んだ
誰かの声が耳をかすめた気がして 夜空にピントを合わせてみた
「春でもオリオンはまだ浮かんでいるんだ」
アルテミスの代わりになったつもりで見つめていると 彼の左肩が動いたように見えた
真上を見上げれば 真っ赤な光が点滅しながら流れていた
やがて彼の左肩に輝いていたオレンジ色の光は東へ流れて行った
耳元でまだ誰かがないている
その声に答えるように 雲が空を覆い始めた
再び空の色が見えた時 彼は元の姿とは違っていた
港の星座は生きている
ひとりで歩くプロムナードも 少しだけ色づいて見えた
オリオンは生きていた
作品にまつわる質問
この作品にまつわるエピソードがあれば教えてください。
とある仕事で幕張に行った際の帰り、ZOZOマリンスタジアムの裏で星の光と航空輸送機の光が交わる空を見上げていました。
綺麗だったなぁ
感想1
読んでいると潮風の匂いが鼻をくすぐり、夜空の星々が瞼の裏に映るようでした。ふとした風景が心身を癒してくれることがあり、そのときはこの星に歓迎されているような気がして嬉しくなります。月は冬にオリオン座を通過しますが、夜空に彼が浮かんでいるかぎりアルテミスは目を離さないのだろうと思いました。
感想2
夜のネオン、通り過ぎる風、海に移る光、星の光、別々の意味を持ち、別々の時代を生きるものがまるで同じところで呼吸をしているように感じられるのはなぜなんでしょう。夜というのはそういう時間のように思いました。一人でふと夜の海に行きたくなる気持ちがよみがえってきて、どこか救われるところのある景色だなと思いました