のびアート

指を縫い目に引っ掛けて
遠くのあなたに球を投げた

いつも緊張した

あなたの手元に
真っ直ぐ届かなかったら
どうしようって

私にあなたが球を投げた
球筋は 左に大きく逸れて
砂を擦る音が聞こえる

「ごめんねー!やっちゃった」

アハハと
陽気に笑う声に

大丈夫だよ
と 気にしてないと安心を与えるトーン
を脳が入力して声帯を震わせた

あなたは 失敗する
私は それを許してる

別に怒ることでもないし
それだけで嫌いになんてならない
なるはずがない

そしてまた
私はあなたに球を投げる

また 緊張した

あなたの手元に
球が届かなかったら

あなたを走らせて

私は 私は
ただ申し訳なく
幻滅される 呆れられる

震える指が
軌道を逸らした

あなたは
おっと っと言いながらも
左手のグローブで捕球した

ごめんね

「いーよー!」

あなたは屈託のない笑顔で
私に球を投げた

あなたは楽しそうだ

私は
あなたの前で
嘘をついてるのに

嘘つき

感想1

私には情景がとても鮮明に浮かんでくる文章に感じて、セリフには声が付いて聞こえたし、冬の少し寒い日のやり取りな感じがして、ボールが飛ぶ乾いた音・グローブに入るボールのパシッという音も聞こえた気がした。縫い目に指をひっかけた際の緊張は、「私」の心臓の音が鮮明に聞こえていたんじゃないかと想像。やや遠くの距離感で投げ合っていることをイメージしながら、その距離だからこそ少しだけ表情に本音を出せる…そんな瞬間もあったのではないかな、と感覚的にだけど私はそう感じた。でも常に緊張と不安が交差している様子も伝わってきていて、運動の汗ではなく、またそれとは違う汗を滲ませてしまいそうだよなぁ…って思ったよ。

感想2

コミュニケーションでの言葉のやり取りは会話のキャッチボールと表現されるのはよく見聞きするけれど、ここまで解像度が高く風景や場面が想像される表現ができるのだな...と驚きながら作品を読みました。それと同時に、トーンなどは感覚というよりも(人によっては無意識のうちにであっても)身につけてきた技術のようなところがあったりするのかもと少し共感したり、これまでどんなボールのやり取りを多く経験してきたかによって現在の一球を投げる時に伴う感情や感覚は随分と違ってくるのだろうなと気付かせてもらったような感じもします。「嘘」についても、どんなもなのだろうとか、つかざるを得なくなった背景があるのかなとか、しばし考えてみています。

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