千葉県 金田由希さん

こんにちは。鈴木由美さんからバトンを頂きました金田由希と申します。
私は千葉県のちょっと田舎の方で生活困窮に関する相談支援の仕事をしています。どうぞよろしくお願いいたします。

〇この仕事についたきっかけ

 私は7年前に、縁あってこの仕事につきました。私自身が、氷河期世代と言われる年代で、20代は不安定な就労を転々とし、生活に困窮していました。そして、なんだかわからないけれど、「生きづらさ」を抱えていました。ある日、仕事に行き詰まり、失業し、生活が苦しくて税金や社会保険料の支払いに困ったので、勇気を出して行政の窓口に相談に行きました。しかし、当時は「貯金をせずに仕事を辞めたあなたが悪いんでしょ」と冷たく言われ、傷つき、怒りに燃えたことを覚えています。その頃は2004年のイラク人質事件の被害者への政治家の発言をきっかけにして、社会に強烈な「自己責任論」が蔓延していた頃でした。そうした社会の空気と自分の実際の経験も相まって、自分の生活が苦しいのは自分のせいなんだ、自分は生きている価値がない人間だと思ったことを覚えています。

その後もいろいろなことがあったのですが、友人たちの支えもあってなんとか生き延びることができました。少しずつ生活が安定し始めた20代後半(ちょうど2008年のリーマンショックを発端に派遣切りが問題になっていた頃です)、わたしは会社に有給休暇を利用したいと申し出たことを理由に解雇されました。その会社はフルタイムで働いても非正規雇用は有給休暇も社会保険の加入もなかったのです。社内には非正規雇用の方が多くいたものですから、会社としては、その人達すべてを有給休暇や社会保険の対象とすることになると大変だ、と思ったのでしょう。会社がやっていることは間違っているという怒りと、解雇されてしまったら生活ができない!これからどうしたらいいんだろう・・・という不安で吐きそうになりながら友人に相談した結果、一人でも加入できる労働組合に相談したらどうか、とアドバイスを受けました。私は早速、ユニオンに加入して、職場相手に雇用の継続を求めて戦うことになりました。会社相手に戦うなんて、ものすごく不安でしたが、そのユニオンに加入している仲間たちが、一緒に会社との交渉に参加してくれて、「よかった、一人じゃない」と、勇気づけられたことを覚えています。結局、雇用継続はなりませんでしたが、遡って社会保険に加入することができ、また会社都合での解雇として、一定の給与の保障もしてもらうことができました。

この経験をきっかけに、自分が生活に困っているのは自分だけのせいではく、社会の問題、組織の問題、その人のいる環境等が深くかかわっていると考えるようになりました。私たちは自分で思っている以上に社会にある価値観を無意識に感じ取っていて、それを内面化してしまい、自分のせいだと思い込んでいることも多いように思います。そして、声を上げると聞いてくれる人もいること、自分と同じように困っていたり苦しんでいたりする人がいること、自分の困りごとを共感してもらえると少しだけ生きやすくなることを経験しました。もう一方で、誰かに相談したいと思っても、働く世代の困りごとについて相談にのってくれる場所が少ないことにも気が付きました。このことから、同じように困っている人の相談にのるような仕事がしたい、地域にそういう場所をつくりたいな、と思って勉強し始めたことが、この仕事につくきっかけとなりました。

〇相談支援の仕事を通して

 初めは右も左もわかりませんでしたが、相談者さんと接する中で、自分の想像を超える複雑な困難を抱える人がたくさんいることを知り、衝撃を受けました。そして、私は、そうした問題に対応していくのに、知識も経験も不足していました。あるのは、ただ、よりそっていこうという思いだけでした。相談者さんと一緒に動きながら、調べて、体当たりして、周りにも助けを求めて、アドバイスをもらって、とにかく必死だったと思います。

 様々な相談者さんと出会うことでいろいろな勉強をさせていただきましたし、一緒に動いてくれる素敵な支援者さんや素敵な地域の方々とも出会うことができました。7年経って、最初の頃よりはもちろん、知識や経験が蓄積されたと思いますが、それでもわからないことは今もいっぱいあります。本当に日々勉強です。

 そして、相談者さんとの経験を通して、自分のことも振り返るようになりました。特に家族の問題です。私が接する相談者さんたちは、家族から暴力を受けていたり、親がいろいろな問題を抱えていたりするなかで生き延びてきた方も多くて、そうしたことを背景に、生きづらさとか、自信のなさとか、人との関係の難しさとか、深い深い孤立感や寂しさや怒りとか、そういったものを抱えている方が多いなと感じます。そうした苦しさに対して、私たち相談員はどんなことができるのだろう・・・というのが私にとってずっと課題でした。いや、それは相談員としての課題というだけでなく、私自身の課題でもありました。先に話したように、会社と戦い、自分の生きづらさは自分だけのせいじゃない、社会の問題も関わっているとわかったことで、以前よりも生きやすくなったものの、それでも私もいまだに孤立感や自分をダメだと思う気持ちを抱えています。その根源には家族との関係も関わっているのかもしれないと思っています。

相談員の仕事をする中で、そうした感情に対して、ある程度の折り合いは付けているものの、ふとした時にぶわっと巻き上がってしまうことがあります。そんなときは私自身もこの「死にトリ」の「つらチェック」を使ってみたり、自分と同じような困りごとを抱えている当事者ミーティングに参加して、話をしたり参加者の話を聞いたりして自分の孤立感や自己否定感を見つめなおしています。見つめなおすことで、他の人が抱えている寂しさへも、なにかできることがないかな、と思っています。孤立感や自己否定感はきっとずっとなくならないのかもしれないけれど、付き合い方はうまくなるかもしれない。今、つらくて寂しくて苦しい思いをしている人がいたら、ひとりじゃないよ、と伝えたいし、自分にとって負担のない方法で気持ちを吐き出せるといいなぁと思っています。もちろん、わたしもここにいます。大変な社会だけど、声を掛け合い、どうか一緒に生き延びていけたらな、と思います。